ご質問にお答えします
リーフキャスティングに関する質問
■リーフキャスティングという修復技法は、どのようにして考え出されたのですか?いったいなぜ、紙漉きの原理にたどり着いたのですか?
欧米において、過去に行われた修復の反省から、「安全性」「可逆性」がクローズアップされました。また大量に修復する道具が求められました。その両方を兼ね備えるのがリーフキャスティングでした。修理・修復は、行きつくところ「接着・接合」です。理想的な接着の一つとして水素結合が有効と認識されました。
■リーフキャスティングにおいて、ウェブサイトで解説されている修復用繊維以外に、何か別の種類もありますか?
修復用繊維というのは、TRCCではリーフキャスティングに用いる材料で、和紙ならば楮・三椏・雁皮に代表される「靭皮繊維」というもの、洋紙ならば針葉樹のバージンパルプのことを指す広義の用語です。コットン・麻・竹なども使用は可能ですし、過去にも事例がありますが、使用事例はここ近年ありません。
■リーフキャスティング以外の修復技術を使うことはありますか?
リーフキャスティング以外にも修復方法は多々あります。繕い、エンキャプスレーション、保存箱収納、デジタル画像の作製、脱酸性化処理など。これらが複合的に組み合わされ、作業の設計された上で修復を行ないます。
■リーフキャスティング以外の修復方法には、どのようなものがありますか?
一般的には、紙資料への修復(補強)は「裏打ち」が主流です。リーフキャスティングは最近は増えてきましたが、まだ少数派でしょう。TRCCでは、 [損傷部分に対して部分的に和紙を当て、保存性と可逆性に優れた糊をもって繕いをする方法][脱酸性化処理、エンキャプスレーションによって封入し保護する方法]などがあります。それぞれの作業が関連しあって選択されて仕上げに向かいます。難しいのは、限られた材料のみを用いて、利用に耐えることができる仕上げをすることです。巷には様々な材料が、星☆☆☆の数ほどありますが、長期保存と可逆性に適した材料は、数えるほどなのです。
■修復用繊維と資料の接着に、水素結合などが利用されていると書かれていますが、具体的にどのような仕組みになっているのですか?
紙の繊維というものは、叩解という工程を経て「自己接着力」というものが強くなります。糊が無くても「接着」するのです。「水」という強力な助っ人の力を借りて、繊維同士が近づこう、接着しようとする力を利用して「くっつける」のです。リーフキャスティング作業は、その力の手助けをしたり、効果を高めたりしているものなので、「自然の摂理」を応用した仕組みとなっています。それを「水素結合」と言います。【水素結合:繊維から水分が除去される過程で、セルロース分子の OH基、O基の間に起こる結合のこと】
■水素結合という技術を用いるとのことですが、修復による本へのダメージはないのですか?
水素結合は、「分子間力」を用いた接着です。水素結合のみの接着であれば、再修復の際には、水を加えるだけで修理部分を除去することができるということです。リーフキャスティングで修復した資料を再修復する場合は、接着剤・粘着物を除去するために、資料にダメージを与えることもありません。(可逆性に富み、再修復時に資料に与えるダメージが少ない、ウブな状態が保存されやすいということです。)ちなみに、むやみに裏打ちを施してしまったリーフキャスティングは、この限りではありません。
リーフキャスティングで用いられる水素結合を利用した接着は、しなやかな仕上がりになるので、利用時に本紙に与えるダメージも少なくて済みます。うまく使えば、合理的で、しかも短時間の作業で済み、加えて将来的に資料に与えるダメージを軽減させる事が可能な接着方法なのです。