大学におけるCSR

大学経営の長期存続と「機関アーカイブ」の大切さ

■なぜいま大学が CSR(Corporate Social Responsibility)なのでしょうか

絶えず変化し続ける社会のニーズを確実にとらえながら、その延長線上に「企業の存続と発展」をイメージして取り組むことをのことを「CSR(企業の社会的責任)」といいます。いまや社会システムのひとつとして認知され始めて、ネット上でも、この文字をよく見るようになってきました。「Corporate」という言葉が頭に付くように、CSRは企業だけの問題なのでしょうか。いいえ、大学も積極的にCSRのシステムを取り入れ、実践し始めているのです。
差別化が叫ばれ、受験者を増やすために厳しい戦いを強いられている大学。特色を出さなければジリ貧の憂き目をみてしまいます。そこで注目されているのが、この「CSR」の考え方なのです。なぜ大学がCSRなのでしょう?それは、大学が立地する地域や住民を「ステークホルダー」としてとらえ始めたからにほかなりません。CSRのシステムを取り入れることにより、大学は地域社会とともに「WIN-WIN(相互利益)の関係」を生み出すことができるようになります。
大学にとっての WINはなんでしょうか?それは時代環境や社会状況の変化を適時反映しながらも、長期的に安定した大学経営の存続が「WIN」なのです。今はそのもっとも効果的な仕組みについて模索している、といったところでしょうか。注目されるべきトピックスです。

■地域貢献に果たす大学の役割とはなんでしょう

大学が地域社会と連携してCSRの成果を得るには何が必要なのでしょうか?それは、学生の活動や大学が立地する地域の取り組みをしっかりと把握すること。そして大学のステークホルダーである「学生」や「地域の住民」が大学を支持してくれるような仕掛けとシステムの構築をすることです。ここを目指して、大学は努力しなくてはいけません。地域に誇れる大学。地域全体で支えていこうと思われる大学。その先に永続的な大学経営が保障されるというのが、大学にとってのCSRなのです。
地域の取り組みを把握する、また地域からの支持を得るような取り組みをするのに、まず必要なことはなんでしょうか。それは大学が取り組んでいることが、きちんとステークホルダーに伝わる仕組みを作ったり、大学を評価してもらう啓蒙・啓発を行なう取り組みなど、さまざまな仕組みを整えていくことです。
さらに、大学の中にある「資源」と地域が持つ「学外でのニーズ」を結びつけて、それをコーディネートする仕掛けをつくることは大学の役割です。大学と地域の相互で作るCSRのシステムは、大学経営が長期的に安定したものになると同時に、地域が活気づき、豊かな地域社会をつくることなのです。

■大学のCSRの取り組みで、今までの具体的な例を、ネットで情報を拾ってみましょう

大学とCSRをキーワードに検索するといろんな文言に行き当たります。

・大学は、地域社会との連携・交流の必要性を第一に考え、さまざまな取り組みを行なっている。
・大学がどのような教育研究を行っているかを、広く地域の人々に紹介している。
・地域に大学の教育や研究を還元し、キャリアアップや生涯学習を支援すると共に、地域住民の向学意欲をサポートしている。
・地方自治体との相互友好協定や、大学教職員・学生と各種団体との連携を通じ、地域との連携を推進する。
・地域が求めている人材の育成、研究成果・知的資源の社会への還元等による地域貢献の事業を通じ、地域の一構成員として、様々な分野で地域社会の発展に貢献し、急増する課題等に対応することを目指している。

ずいぶんと意欲的に大学が取り組んでいることが伺われます。
このような大学におけるCSRの取り組みが注目された背景には、学校教育法の改正により、大学の使命として、教育、研究に加え「社会貢献」が位置づけられたことがあげられます。この延長線上に学術交流協定を基盤とする産学官連携があり、社会貢献の具体例を目にすることが増えてきました。つまり大学はそれまで以上に地域社会を意識せざるを得なく状況になったということです。特に地方に位置する国立大学は、自分たちの大学の存在意義を確かなものにするために、地域に根ざした取り組みを行なったり、大学での教育研究成果を地域に還元することによって、大学存続の意義を見出そうとしています。
いまのところ、CSRの取り組みで先行しているのは、法人化で外部評価が厳しく問われるようになった国立大と、財政難の自治体に存在意義をアピールしたい公立大です。そしてその流れは私学にも波及しています。他大学との「差別化」のために、大学が拠って立つ基盤である「地域との連携」に取り組んでいく努力が始められ、成果を上げつつあります。

■大学情報の発信の唯一の拠り所は「機関アーカイブ」

大学の内外に、大学の根幹を理解し、共有してもらうための「キー・オブジェクト」はなんでしょう。それは「機関アーカイブ」です。耳慣れない言葉かもしれません。アーカイブという言葉自体、最近ようやくその言葉を耳にするようになったくらいです。しかし欧米諸国のみならず、お隣韓国でもアーカイブは広く一般に認知されています。
一般にアーカイブズ(記録資料)は、「機関アーカイブ(Institutional Archive)」と「収集アーカイブ(Collecting Archive)」に分けられます。いずれも収集・整理・保存・公開を目的とした資料群ですが、「機関アーカイブ」は、事務や業務の活動に伴い、日々発生する資料が、役目を終えた段階で集められ、整理されて、保管される資料のことを言います。いわゆる「コレクション」といわれるような外から買ったり集めたりする資料のことではありません。それは「収集アーカイブ」といいます。

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■「機関アーカイブ」は、大学のCSR活動を下支えする大事なもの

日々の業務の中で発生するたくさんの資料(アーカイブズ)を、いずれゴミになるものだから、と現場が捉えていたら困ったものです。それは、その大学が、自分たちの活動の沿革(全体像)をつかもうとしていない、という意思表明をしていることと同じだからです。それこそコンプライアンスの意識の欠如として社会の注目を浴びてしまうかもしれません。きっと大学のイメージを大きく損ねてしまうでしょう。
「機関アーカイブ」は、大学の立つべきポジションを確認したり、発見したり、表明したり、説明したりするときの唯一の拠り所になります。つまり大学経営の《礎》と捉えていく必要があるのです。「機関アーカイブ」は、大学のCSR活動を下支えしている大事なものなのです。
もし大学が「機関アーカイブ」に対する取り組みに力を注ぎ、内外にその取り組みを発信することができれば、アーカイブズの分野においても、大学が率先して啓蒙し、地域の活動を支えていく、起爆剤になることでしょう。もちろん大学のCSRの活動記録も「機関アーカイブ」です。大事に残しながらも活用できる状態に「アーカイブ」することは、間違いなく大学経営の長期存続を強力にサポートすることになるでしょう。

■「機関アーカイブ」の保存は原物保存が低コスト - 資料の保存と悩みの多いデジタル化

例えば大学の多く乱立する地域は、学生数、敷地、歴史など異なるさまざまな学校が存在します。その中で認知度を上げるためには、他の大学と比較されても埋もれない、強い個性を表現した「大学情報の発信」が必用です。これも「大学の差別化」です。そのためには大学そのものの活動の沿革(全体像)をつかむ必要があります。その拠り所となるのも「機関アーカイブ」です。
また大学が発展してきた歴史は、そのまま学校の立地である地域の歴史でもあります。これから歴史を重ねるほど、歴史を語る資料(写真やポスター・チラシ・小冊子など)の重みが増していきます。また学内行事の正確な記録(日時場所など)も、誤った記述が活字で残ると、レファレンスの際に誤情報を与えてしまうこともあります。それらの情報の宝庫である大学新聞も、欠号の無い保存が大変重要です。これらも大事な「機関アーカイブ」です。これらの資料の保存は、大学におけるCSR活動の中でも大切な「主幹となるべき活動」となります。

■保存するなら原物保存を選ぶ方が賢明

「機関アーカイブ」の保存については、省スペースだけの問題でデジタル化を選択すると、そのコストは膨大なものとなり途方にくれてしまうことになります。一部の資料のみがデジタル化され、その他大勢の資料がデジタル化の順番待ちとなり、長大な計画となります。学外への情報発信の新たな機能である「学術機関レポジトリ」とは性質も異なり、予算もいつまで続くのか不透明となるでしょう。
またデータの置き場所にも、データ量の膨大さとバックアップやマイグレーションで悩まされます。日々発生する「初めからデジタルで作られた資料(ボーン・デジタル)」も、どんどん増えて行きます。将来に問題を積み残すの可能性がデジタル化にはあります。大学史関連資料の保存と活用を連綿と続けている資料保存活用機関を有する大学もあります。しかし地味な取り組みに周囲の理解も薄く、人員・予算の不足の憂き目をみていることが問題となっています。アウトソーシングしないで人的資源を活用し、地道な取り組みでデジタル化を成功させている機関もありますが、それはほんの一部です。
過去の残すべき「機関アーカイブ」の保存については、原物保存から始めたほうが低コストだったりするのです。保存と活用の第一歩は、まずは原物保存を選ぶ方が賢明です。

■ファイリングする箱やファイルも適材適所で選ぶ工夫が必要

「機関アーカイブ」は文化財ではありません。桐箱なんて必要ありませんし、資料保存用の中性紙箱のような高価な箱である必要もありません。でも、茶色の段ボール(酸性紙といいます)で作られた文書保存箱も、決して保存に適したものではなく、長持ちしません。普通の文具よりもちょっと値段が高いが、中に入れた資料も箱も2倍長持ちする、そんな費用対効果の高いファイリング用品があれば、それにいれて保存と利用をするのが良いでしょう。ところがそのようなファイリング用品を購入することができませんでした。それは誰も作っていなかったからです。
そこで研究し開発しているのが〔スマファイ(スマートファイリング・システム)〕というものです。紙資料の保存の専門家がコストパフォーマンスとライフサイクルコストに優れた機能を持ちながら価格を抑えたファイリング用品の開発に携わり、商品化したシリーズです。「機関アーカイブ」の原物保存を支援するファイリング用品。ファイリング用品も適材適所で選んでください。