ご質問にお答えします

資格など、コンサバターに関する質問・その他

■修復、保存のお仕事において必要な資格というのはあるのですか?

基本的にありません。文化庁では、国宝修理に携わる技術者についての認定試験を、技術保持団体と連動して試行しています。歴史資料の分野についてはありません。補うものとして、文化財全般において指定文化財を取り扱う技術者を選抜して2カ年、10日にわたる講習会を開催しています。TRCCでは、講習会終了者が2名います。

■一通りの技術を身につけるまでは、どれくらいの経験が必要なのですか? また、必要な資格はありますか?

例えば TRCCでは、どんなに優秀な人材でも、一年間仕事をしないと、全体の動きすら見えてきません。また、資料の持つ劣化損傷の症状は、自分の持つ技術の上を行くものが絶えず出てきますので、「一通り」の技術とは一体どこまでなのか、答えようがないところがあります。自分の持つ技術と、それを補完するネットワーク(人や組織)へのコネクションが形を見せ、対応力がでてくるには、10年はかかるかもしれません。必ずしも修復の勉強をしてきた人が、就職に有利な世界ではありません。
また資格は、「この世界に入る前に取れるもの」はありません。この世界で経験を積んで、初めて「資格を取る入口に立てる」仕組みとなっています。

■資料の修復や保存技術は世間にまだあまり知られていないと思いますが、活動を広めたり、後継者を育てたりするようなことはしてますか?

TRCCは営利を目的とした私企業ですので、ビジネスの機会を増やす意味での広報活動、内部的な人材育成はしております。公的な立場としては、一例にあげれば、国立公文書館がその役目をになっていると考えます。

■ペーパーコンサバター養成の重要性をコラムに載せていますが、技術を学ぶための集中講義のような実習型養成をやる予定はないのですか?

修復技術に教科書はないので、誰もが同じ教育・訓練を受けるサービスを受けられる訳ではありません。また技術を生かしたり、伸ばしたりするための就職口も限りなく狭い道です。修復技術を生かす環境は先進国の中でもかなり小規模なのではないかと考えます。文化事業に手薄い日本の環境では、現行の工房も、事業が悪化し消え入る恐れがあります。

■修復・保存作業の際に心掛けている注意点には、どんなことがありますか?

「文化財」を対象とした修理技術者の心構え:『やれるものはやれる、やれないものはやれないという謙虚な姿勢が必要』

  • 1、現状をそのまま残せるか 「修理は何もしないところから始まる」
  • 2、オリジナル部分の確保
  • 3、復元をしない レプリカ・模造で 済ます
  • 4、余分な、過剰な修理はしない
  • 5、全体に目配りできるか
  • 6、必ず再修復できる余地を残す

TRCCは「大量修復〈mass conservation〉の工房」ですので、上記の事を基底にしながらも縛られず、クライアントと仕上げのイメージ合わせの中で、以下の項目を考慮に入れて、使用する技法・工程を設計します。

  • ・資料の貴重度
  • ・予算の多い少ない
  • ・利用のされ方
  • ・保存のされ方

なお修復では、特殊の場合を除いて「可逆性のある」「長期安定性の高い」材料のみを使います。

■海外にある、同じ業務をする会社とは技術交換など交流がありますか?

TRCCにおいては、デンマークやドイツ、アメリカ、オランダ、イギリスの会社や工房などと、会社を越えた個人同士の交流があります。また一般的には、工房を流転しての技術取得などが、その機能を代替していると考えられます。