ご質問にお答えします

技術に関する質問

■一度修復された後に再び劣化してしまった場合、再度の修復は可能なのですか?

過去に修復を行なった修理技術者の理念次第でしょうか。現在のスタンダードな修理の原則は、可逆性をもった修復ですが、技術者をしばる法律がある訳ではありませんので、可逆性のない技法が取られることもあるでしょう。そうなると再修復も危険な行為になりますし、高いコストがかかります。取り返しのつかない事態にならないように所有者が目を光らせるしかありません。交通事故と同じように、けっして元には戻りません。修復はけっして「元に戻る」ことではないし、危険な行為を伴うものであることは認識しておくとよいでしょう。

■資料の修復後に、そのままの状態を保てるのは、どのくらいの期間なのですか? 定期的な保守は必要なのですか?

ひとえに保存環境次第です。定期的な保守というよりも、見守り(定期点検)は必要です。例えばリーフキャスティングの技術も、作業する工房によって、原理は同じであっても、使用する材料、作業工程は同じではありません。保存性も当然異なると考えられます。業者を盲目的に信頼してはいけません。水素結合よりも「糊の接着」の力を大きく借りた「リーフキャスティング」も、仕上がりを見たら区別できないかもしれません。 水素結合も「本紙の性質」や乾燥(脱水)工程に問題があれば、接着力が弱いものも出てくることが考えられます。定期的な点検で問題が見られた場合ですが、可逆性の高いリーフキャスティングならば再修復も容易です。

■本を守るための中性紙保存箱は、「外部からの劣化要因から大幅に保護できる方法」だと書かれてありますが、虫食いなどからも本を守ることができるのですか?

箱入れと IPM[Integrated Pest Management(総合的有害生物〈害虫〉管理)]は、併用されて効力を発揮します。虫との格闘は、箱に入れたらおしまい、というものではありません。独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所の HPを見ると、 IPMの情報が公開されています。

■新しい修復技術が開発された場合、それ以前に修復済みの資料にも適用可能ですか?

「それ以前に修復済みの資料」が、《リバーシビリティ(可逆性)》のある修復がされていれば可能と考えます。前に修復を行なった時代の流行もありますし、時代の気分ということもあります。文化財でも、扇子から屏風へ、または巻物へなどと形態変えしているものもたくさんあります。

■博物館の展示物修復をテレビで見たことがあるのですが、図書館資料の修復もそれと変わらないのですか?

博物館の展示物修復は「見せる」「恒久的に展示に利用できるようにする」ものと博物館員は考えるかもしれません。図書館資料は「閲覧を保障する」ものであるので、保存よりも活用がメインとする考えが基底となっていると思います。つまり図書館は、修復より利用なので、オリジナルの保存という意識は「低い」と考えているのでは、と感じています。

  • ◆博物館の世界:収蔵品はどれも代替のきかないものなので「物質的な処置〈修復〉」を行なう。
    …デジタル化・複製作成したら現物は廃棄、などということはできない
  • ◆図書館の世界:資料、または中に書かれた情報を延命させるために予防的な維持管理を行なう。
    …「物質的な処置〈修復〉」はその活動の「一部」

図書館資料の修復は、弊社でも案件としての割合は少ないものです。